睡眠薬

入院患者の睡眠薬使い分け ~初級編~

入院患者さんはどうしても、環境の変化や体調の変化のせいで不眠になりがちです。

「先生、眠れないんです・・・。」と言われたときに、睡眠薬を処方しなければならない場合は多いと思います。

そんなときになんの薬剤を選択するのか・・・よくわからないから知っている睡眠剤を処方してしまえ、となっている方もいるのではないでしょうか。

そんな方のためにできるだけわかりやすく、精神科医が睡眠薬の選び方についてどのように考えているのか、お伝えできればと思います。

睡眠薬の分類について

精神科医は睡眠薬を選択する際にどのように考えているのでしょうか。

種類も多くて、効果もいまいちどう違うのかわかりづらいですよね。

多くの精神科医は、まず睡眠に関連する薬剤を以下のように捉えています。一般的な睡眠薬以外に、実は抗うつ薬や抗精神病薬、漢方薬のような追加の選択肢もあります。

  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ブロチゾラム、ゾルピデム、エスゾピクロン、ゾピクロンなど)
  • メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)
  • オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサント)
  • 鎮静作用のある抗うつ薬(トラゾドン、ミアンセリンなど)
  • 鎮静作用のある抗精神病薬(クエチアピン、ルーランなど)
  • 睡眠補助作用のある漢方薬(抑肝散、酸棗仁湯など)

ちなみにゾピクロン(商品名:アモバン)とエスゾピクロン(商品名:ルネスタ)はZ薬と呼ばれ、厳密にいうとベンゾジアゼピン系薬剤とは異なる薬剤なのですが、作用は類似しています。そして、依存形成などの副作用が比較的少ないという利点があるとされています。

ややこしいので、今回はベンゾジアゼピン系睡眠薬とひとまとめに表記しています。

精神科医が不眠に対する処方薬を考える際には、まず、上記のどの括りの薬剤を選ぶかを決定していきます。

そして、他の精神症状のない不眠では上記分類の太字で示した薬剤から選択するのがベターでしょう。なぜなら、添付文書上もはっきり不眠症への適応があるとされているからです。

以下では、特に上記太字の、不眠に適応のある薬剤について説明をしていきます。

不眠に対する処方の考え方

上記で述べたベンゾジアゼピン系睡眠薬メラトニン受容体作動薬オレキシン受容体拮抗薬のいずれかを選択するか、ですね。

まず結論から述べますが、どれを選んでも間違いではありません。

不眠は、生命の危機につながりづらく、眠れるか眠れないかは本人の主観によります。要は正解不正解がはっきりわかりづらいので、はっきりとした不正解はないのです。

じゃあ薬剤をどのように選ぶべきなのか。それはずばり、「有害事象をできるだけ少なくするように選ぶ」が正解です。メリットが曖昧な以上は、明確なデメリットのある薬剤選択は避けるべきなのです。

そして、そのうえで効果のありそうな選択肢を取っていけばよいのです。

それでは各薬剤のデメリット(副作用や禁忌、注意事項)を確認していきましょう。

各薬剤のデメリット一覧
ベンゾジアゼピン系睡眠薬翌日の持ち越し、記憶障害、筋弛緩作用、依存形成、耐性形成、せん妄誘発など
メラトニン受容体作動薬 翌日の持ち越し
オレキシン受容体拮抗薬 翌日の持ち越し、CYP3Aを阻害する薬との相互作用、悪夢

上記をご覧になってどう感じるでしょうか。

先ほど「有害事象をできるだけ少なくするように選ぶ」が正解であると明記したことを考えると、メラトニン受容体作動薬を選択したくなりますよね。そして、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は選ぶのにすこし抵抗が生じますね。

(上記を見ていただけると明らかなのですが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は有害事象が多いうえに依存および耐性を形成するので非常に厄介なのです。依存形成のために中断もしばしば困難になります。精神科医としては、内科医師による安易な処方を避けていただきたい薬剤の筆頭です・・・。)

つまり、メリット・効果を抜きに薬剤選択を行うと、優先度としては

メラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬>ベンゾジアゼピン系睡眠薬

になるんです。

そしてここで気になるのは、薬剤の効果についてですね。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、力価や半減期の異なる様々な薬剤が発売されているため一概には言えないのですが、入眠作用の強さとしては概ね以下のようになります。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬>オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬

さっきと真逆ですね。要は、入眠作用を求めれば求めるほど薬剤のデメリットは増えていくことになるんです。

まとめると

デメリットの少なさ メラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬>ベンゾジアゼピン系睡眠薬
入眠作用の強さ ベンゾジアゼピン系睡眠薬>オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬

上記のように、デメリットの少なさと入眠作用の強さのバランスを並列で考えて、現在の状況に適している薬剤を選んでいくのがおおまかな考え方になります。

厳密にいうと、各薬剤ならではの特徴があり、それらを考慮するともっと複雑なのですが、非精神科医の先生方がそこまで考慮する必要はないでしょう。

まとめ

いかがでしょうか。上記では、大まかではありますが睡眠薬の選び方の基本の紹介しました。

ポイントは以下の通りでした。

・不眠にたいしては基本的に不眠に適応を持つ薬剤を選ぶ。ただし、他の精神症状が随伴する場合はその限りではない。

・ ベンゾジアゼピン系睡眠薬メラトニン受容体作動薬オレキシン受容体拮抗薬 が不眠に対する薬剤の主力。

・デメリットを理解したうえで、できるだけデメリットの少ない薬剤を選択する。そのうえで効果を求める。

かなりざっくりではありますが、まずはこれらを抑えていただくことが肝要かと思います。

上記では記載していない、各薬剤に特有のメリットというものはたしかに存在しており、抗うつ薬、抗精神病薬、漢方薬をあえて選択する場合もよくあります。ただ、それはやや専門的な話になってしまうのではじめは気にしないでよいでしょう。

機会があればまた別記事で紹介させていただきます。