現在の日本の医学部において、自治医科大学医学部や専門コースなどの例を除くと、多くの初期研修医は自身の専攻する診療科を自分で選択して進路を決めることになっています。
別に、診療科を一度選んだからといって一生変えることでできないわけではないし、いくらでも転科、やり直しはできるのですが。
それでもやはり一番初めのエネルギーと時間の注ぎ先を後悔しないものにするためには重要な決断でしょう。
絶対になりたい診療科がある人にとってはあまり参考にならないかもしれないです。その人たちはなりたい診療科を選べばいいのだから。それほど、なにかが好きという気持ちは大事だと思います。
ただし、ここでは特定の診療科への愛、というだけでは決断しきれない人たちのための考え方の助けになる私見を述べたいと考えています。(そういう人たちはけっこう多いんじゃないでしょうか?)
以下に各診療科を選ぶ際の、考えておくべきポイントを述べるので各項目をすべて考慮したうえで診療科選びをすると、後悔する可能性を減らせるかと思います。
診療科選びのポイントその① 共同作業が得意かどうか
この観点で診療科選びを考えているひとは、僕が初期研修医のときにもあまりいなかったように思います。しかし、実際に仕事をすると結構切実な問題だったりもするのです。
つまるところ、どの診療科を選んだとしてもチーム医療が必要なのは変わりないです。仕事は一人でするわけではないので。
例えば、メジャー外科は完全に共同作業の割合が多い診療科の代表ですね。なんせ外科手術は一人では行えないのですから。大きな手術、処置になればなるほど複数の医師、スタッフとの共同作業の要素が大きくなります。
そして共同作業が多いということは、仕事中だけでなく仕事以外のコミュニケーションの量も増えるということです。これは、大人数でのコミュニケーションが好きじゃない、得意じゃないひとにとっては結構な負担になると推察されます。
コミュニケーションなしでも仕事さえきっちりやっていればOKかというと、そんなことは絶対にないんです。何度も言いますが、仕事は一人でするわけではないので。
これらより、自分のコミュニケーションの特性についてはちゃんと把握しておく必要があるといえます。
コミュニケーション不全者、個人間のコミュニケーションは好きだが大人数というのはちょっと・・・、皆でコミュニケーションをとり続けることは苦じゃない、むしろみんなでわいわいしていたい、などさまざまなタイプの人がいると思います。
各々のコミュニケーション特性に合った診療科を選ぶことはのちの後悔の確率をぐっと減らしてくれます。
特に、コミュニケーションが病的に苦手な人は、個人主義の強い診療科を選ぶほうが吉でしょう。苦悩の量は確実に減ります。
診療科選びのポイントその② 手先が器用かどうか
手先の器用さというのは重要です。診療科選びで失敗しないためには自分の手先の器用さにはある程度目星をつけておくことが必要だと考えています。
それではそもそも医師に必要な手先の器用さというのは何なのか。諸説あると思いますが、個人的に定義させていただくならば、「手先が器用である=ある特定の動作の習熟に要する時間が短い/ある特定の動作の再現性が高い」といったかんじでしょうか。
さて、自分のいままでの人生を思い返してみてください。中高生のときの体育の授業で新しく習った動作の習熟の速さはどうだったか、部活動での習得効率の速さはどうだったか・・・・。
思い返して周囲の人と比べて自分はどうだったか?そのイメージはおそらく、上記の手先の器用さと直結しています。
過去を想起すると、なんとなく、自分の手先の器用さがイメージできるものなのです。
ただし、ここで述べたいのは手先が器用じゃない人は外科医になるのを諦めろ、という話ではないです。ただ、自分の能力を把握しておくことが肝要であるということなんです。
器用でない自覚があるのであれば、相応の努力や苦悩を想定しておかなければならないのです。
そして周囲と比べて段違いに不器用ならば、やはり職業選びにおいて考慮すべきでしょう。
ライオンはサバンナ、魚は海、、、のようにあなたにあった環境がいくらでもあるのだから別の特性を生かして働き方はいくらでもあります。
診療科選びのポイントその③ どのような頭の使い方をしたいか
仕事をするうえでどのような頭の使い方をしたいのか、ということはイメージしておく必要があります。
まずは、大体のありそうな好みのパターンと診療科の例を以下に列挙してみましょう。
- ①移り変わる状況に対して臨機応変に頭を使い続けたい、迅速に判断したい。
- ②一つのことに対してじっくり考えたい。しかも科学的にきっちりと論じたい。
- ③一つのことに対してじっくり考えたい。しかし感覚的な要素も大事にしたい。
- ④できるだけ頭を使わずに作業に没頭したい。
さて、あなたはどのタイプでしょうか。各診療科ごとに、一概にはいえないまでも頭の使い方に特徴があります。自身の特徴と合わない診療科を選んでしまうと日々、苦悩したり、物足りなさを感じる可能性が上がってしまいます。
例えば上記①パターンの人は、メジャー内科、メジャー外科、救急などが性質に合っている可能性が高いし、②の方は神経内科や血液内科、病理などが合っていそうです。③の方なんかには著者と同じ精神科を是非お勧めしたいです。④の方には、生命には直接関わらない外科系なんかも合っているかもしれません。
①~④はクリアカットに分けられるものではないですし、各診療科の中にも細分化されたさまざまな仕事があると思います。しかし、大筋の考え方の傾向というものを把握しておくことは重要でしょう。
診療科選びのポイントその④ 自由時間をどの程度持ちたいか
以前から医師界隈で言われるQOLの話ですね。勤務医において、QOLは概ね「自由時間」がどれだけ得られるか、という点に依存しています。診療科ごとの収入の差も確かにありますが、勤務医においては、実際の生活の質を左右するほどのものではないでしょう。
医師の自由時間を大きく左右するのは、入院持ち患者の数と手技の量です。
麻酔科を、入院持ち患者がいない外科系だからという理由で選んだ人に何人か会ったことがあります。筆者は、それも立派な選択の理由として成立すると考えています。
入院持ち患者とは、つまり入院中の最終責任を自分が負うべき患者のことを指します。そのため、急変や患者家族へのICなど、必然的に時間外であるかは関係なく仕事をしなければならないタイミングが増えるのです。
また、手技の量とは各診療科ごとに存在する専門的手技を指します。外科であれば手術、循環器内科であればカテーテル、消化器内科であれば内視鏡、精神科であれば精神療法・・・のようにそれぞれの診療科にはその診療科特有の専門的手技が存在しています。それらが、1日のスケジュールのうちのどの程度の割合を占めるかが、医師の自由時間を大きく規定しています。
1日中、手技をできればそれほど幸せなことはないですが、書類仕事や処方の入力、カンファレンス、退院サマリ作成、論文作成など、医師にはその他の仕事が意外と多くあるのです。
手技の魅力で診療科を選びたいところですが、それだけが医師の仕事ではないのです。そのことをしっかり念頭において診療科選びをしなければ、あとで後悔すること請け合いです。
まとめ
さて、ざっくりと述べさせていただきましたがいかがでしょうか。
筆者は現在、精神科医として勤務していますが初期研修医の2年目に、診療科選びに頭を悩ませた経験があります。
学生時代から脳と脳機能が好きだったのですが、神経内科、脳外科、精神科で強く悩んだのです。
そんなときに行ったのが、上記のような自己分析と職業分析です。分析を行うと選択は自ずと進みました。
初期研修医の皆さんには、世間から見たら贅沢すぎるほどの自由な選択肢が広がっています。
だからこそ、皆さんにはその人に合った「天職」を見つけてほしいと考えています。自分の性質・能力に合ってさえいれば、のちに必ず「この仕事を選んでよかった」と思えるようになるはずです。