マインドフルネス

マインドフルネスってどんなもの?

皆さんも、マインドフルネスという言葉を一度は聞いたことがあると思います。

多岐にわたる応用分野と効果があるとされ、現代社会においてその重要性がますます高まっているマインドフルネスですが、いざ問われるといまいち何を指しているのかわからないという方も多いのではないかと思います。

今回は身体と心をつなぎ直し、自分と世界をつなぎ直す、マインドフルネス(と瞑想)の有用性について改めて紹介します。

◎マインドフルネスとはなにか?

マインドフルネスについて検索してみると、さまざまな効能や有用性が喧伝されていることを目にすることと思います。

しかし、本来のマインドフルネスの定義は非常にシンプルなものです。医療行為としてのマインドフルネスを体系化させたことで知られるマサチューセッツ大学医療センターのジョン・カバット・ジン博士はマインドフルネスを以下のように定義しました。

『マインドフルネスは瞬間、瞬間の移りゆく体験に対し、「意図的に」、「その瞬間に」、「価値判断をせず」、注意を向けることで生じる気づき』

これを見てどのような印象を受けるでしょうか。シンプルすぎて「つまりどういうこと?」と思われる方も多いのではないかと思います。

しかし、マインドフルネスの過程で行われることは本当にこれだけです。そして、ここで覚えておいてもらいたいのは、喧伝されている効果や有用性は、この過程で生じる副次的なものに過ぎないということです。リラクゼーションや能率アップなど、ある特定の目的に捉われてしまうことは、体験の本質を損なってしまうことにつながりかねません。

そのような意味においては、マインドフルネスにリラクゼーションや能率アップなどの過度な期待を抱くことは、その方にとってもったいない結果につながってしまうかもしれないので要注意といえます。

◎マインドフルネスの起源と歴史

さて、ご存じの方も多いとは思いますが、マインドフルネスの概念は、仏教の瞑想実践から発展したものです。特に、紀元前6世紀ごろのインドの釈迦が説いたヴィパッサナー瞑想が基盤となっているとされています。ヴィパッサナーは「洞察」を意味しており、そこでは自己の内面を観察することが重視されます。

20世紀に入ってから、西洋でもこの概念が注目されるようになりましたが、マインドフルネスが医療や社会にさらに広がるきっかけとなったのがMBSR(マインドフルネスストレス低減法)というプログラムの確立です。MBSRは、仏教の瞑想実践に基づくマインドフルネスの概念を取り入れ、現代医療に適応させたものです。ジョン・カバット・ジン博士が1979年に主に慢性疼痛の患者向けにこのプログラムを開発しました。その後、マインドフルネスが慢性疼痛以外のストレス全般、うつ病、不安障害など多様な問題に対して効果があることが実証され、広く普及することになりました。

近年は、マインドフルネスとヴィパッサナー瞑想を概ね同義と捉える研究者が増えてきていますので、この記事内のマインドフルネスについての記載も基本的にはそこに準じていると考えていただければと思います。

◎マインドフルネスの実践方法

マインドフルネスの実践方法には様々なものがありますが、MBSRでは具体的に以下の方法が採用されています。

レーズンエクササイズ:一粒のレーズンに注意を向けて、五感や心身の変化を味わいながら食べる方法。

ボディスキャン: 体の各部位に順番に注意を向け、その感覚を感じ取る方法。

座る瞑想: 座った状態で呼吸に注意を向ける方法。思考や感覚、音などに注意を向けることもあります。

ヨーガ:身体の各部に注意を保ったまま、その部位を動かしてその時の心身の状態に注意を向ける方法。

日常生活での実践: 食事や歩行、シャワーなど、日常生活の動作に注意を向ける方法。

マインドフルネスや瞑想の実践というと、座って行うものを想像される方も多いのではないかと思いますが、実際には様々な実践方法があります。(ぜひ検索してみてください。瞑想のレパートリーは本当に本当に無数です!)

マインドフルネスの文脈では、ヨーガのことをマインドフルムーブメントの一つと表現しますが、マインドフルムーブメントの一環として太極拳やストレッチなどを嗜む方もおられます。もともと何らかのスポーツをされている人であれば、そのスポーツの中でマインドフルネスを実践することも可能です。


仏教においては、坐禅の時だけや老子とのやりとりの時だけなどの限定的な場面でのみ修行がなされるわけではないといいます。横になって寝ている時でさえ、どんな時でも常に一呼吸一呼吸・一挙手一投足、すべての日常動作の中に修行があるとされています。このような考え方を行住坐臥といいます。

ボディスキャンや座る瞑想に取り組むことは、仏教においては只管打坐(目的意識を手放してただひたすら座ることに打ち込むこと)と表現されます。

只管打座から行住坐臥へ。

マインドフルネスは、まずは座布団や椅子の上から始めて、日常生活すべて、ひいては人生すべてに広がっていくものなのです。

◎マインドフルネスの効果

マインドフルネスによってどのような効果が期待できるのか。これは文字で表せば表すほど、その本質から遠ざかってしまうものではあるとされていますが、いくつか例を紹介します。

マインドフルネスでは、過去の後悔や未来の不安を手放して、現在の瞬間に注意を向けることを目指していきます。そして、自分の思考や感情、体験に対して評価や判断を下さず、体験そのままをあるがままに受け入れていきます。人間というのは、すべての体験に無意識の価値づけやラベリングなどをしているものであり、すべての体験はその修飾をうけています。特にネガティブなものに対してより強い修飾が与えられており、体験そのもの以上の影響を受けているものなのです。


マインドフルネスの過程のなかでその修飾が外れていくことになりますから、結果的にストレスや疼痛が減弱するというわけです。


また、過程の中で、感情や思考の揺れ動きを観察し手放す練習をしていきますから、それらをモニタリングする力がその人の中に育っていきます。それが結果的にそれらをコントロールする力につながるというわけです。集中力についても同様です。

さらに、心身の繋がりについてもより細かく観察することになるので、心身バランスの乱れに敏感になっていきます。このことが、血圧の低下や免疫機能の向上などにもつながるわけです。

さて、このように様々な効果が確認されているため、大きなブームになっているわけですね。

ただし、マインドフルネスはもともとは仏教から派生した深遠な概念です。

心身との繋がり、慈悲との繋がり、世界との繋がり、など多岐にわたる体験がその中に含まれています。

ここで紹介した効能は、全体のなかの本当に表層的なものであるということにご留意ください。

◎マインドフルネスの応用分野

マインドフルネスが社会でどのように応用されているかについても以下に紹介しておきます。

医療: 慢性痛やがん患者のストレス軽減、心血管疾患の予防など、医療分野で広く活用されています。特にMBSRは、慢性痛管理やストレス関連疾患の治療に効果があります。うつ病、不安障害、PTSDなどの精神科治療においては、マインドフルネス認知療法(MBCT)が有効とされています。

教育: 学校や大学での導入が進んでおり、学生の集中力や情緒の安定に寄与します。特に、高ストレス環境にある学生にとっては、マインドフルネスは有用なスキルとなります。

ビジネス: 職場でのストレス管理や生産性向上のため、マインドフルネスプログラムが導入されることもあります。

◎おわりに

マインドフルネスについていろいろな説明をしましたが、実はこれらの知識やメカニズムをあまり真面目に記憶に残しておく必要はないのかもしれません。

なぜなら、結局のところ実体験に伴う学びこそが大事なものだからです。

もし興味がある方は、まずは1日5分や10分でもいいので、静かに座ってみることから始めることをお勧めします。